倦怠の勿忘草

“汚れつちまつた悲しみは 倦怠のうちに死を夢む”

目玉

 

耐えよ、耐えよ。

 

わたしはわたしのみで満足するのだ。

 

自分自身の眼で自分自身を観察し、承認してあげるのみである。

 

ひとの眼など信用するな。

 

ひとは汚れた眼でお前を見るだろう。

 

そこにおいては承認も、無関心も、好きも嫌いも汚れている。

 

全ては利己的な目論見によるものだ。

 

彼らは水槽に群がる見物人である。

 

 

「デメキンは気持ちが悪い」

 

「デカいものが良い」

 

「優雅に泳いでいるものはどいつだ」

 

「もっと見栄えの良いものはおらんか」

 

 

見物人というものは、なんとも汚らしい虚栄心を晒してくれている。

 

どの金魚が優れているかなど関係ない。

 

自分の水槽に入れて見栄えが良いか。

 

それだけが彼らの関心事である。

 

 

どうだ。

 

人の精神を見物して楽しいか。

 

懸命になって水槽を磨いている。

 

餌や石や草まで用意して。

 

全ては虚栄のため。

 

 

水槽でぷくぷくと泳いでいる。

 

可愛い奴ら。

 

どうら、少し驚かせてやろう。

 

ドンドンコツコツ。

 

一斉に翻る赤黄色。

 

ケタケタケタケタ。

 

 

ところが一匹。

 

事に動じず泳いでいる。

 

真に優雅なる者が泳いでいる。

 

 

真に優雅なる者は、逆さまになって泳いでいる。

 

腹を水面に向けて泳いでいる。

 

その躰から不自然に飛び出た目玉。

 

ギョロりギョロり

 

水底をみている。

 

 

見物人にはそいつが気にくわない。

 

完璧に磨いた水槽を汚すものであるからだ。

 

見た目が悪いからだ。

 

 

そうだこいつは、初めから気持ち悪いと思っていた。

 

見物人はそいつを網で掬い出し

 

ティッシュペーパーに放つ。

 

目玉がぐるりと回転し

 

見物人の眼をみた。

 

嗚咽が出る。

 

即座にティッシュペーパー丸める。

 

その塊をゴミ箱へ捨てる見物人。

 

彼は直前に、拳に力を込めた。

 

グチャり。

 

 

ゴミ箱の中には生臭い塊と

 

こぼれ落ちた目玉が転がっている。

 

…