目玉
耐えよ、耐えよ。
わたしはわたしのみで満足するのだ。
自分自身の眼で自分自身を観察し、承認してあげるのみである。
ひとの眼など信用するな。
ひとは汚れた眼でお前を見るだろう。
そこにおいては承認も、無関心も、好きも嫌いも汚れている。
全ては利己的な目論見によるものだ。
彼らは水槽に群がる見物人である。
…
「デメキンは気持ちが悪い」
「デカいものが良い」
「優雅に泳いでいるものはどいつだ」
「もっと見栄えの良いものはおらんか」
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見物人というものは、なんとも汚らしい虚栄心を晒してくれている。
どの金魚が優れているかなど関係ない。
自分の水槽に入れて見栄えが良いか。
それだけが彼らの関心事である。
…
どうだ。
人の精神を見物して楽しいか。
懸命になって水槽を磨いている。
餌や石や草まで用意して。
全ては虚栄のため。
…
水槽でぷくぷくと泳いでいる。
可愛い奴ら。
どうら、少し驚かせてやろう。
ドンドンコツコツ。
一斉に翻る赤黄色。
ケタケタケタケタ。
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ところが一匹。
事に動じず泳いでいる。
真に優雅なる者が泳いでいる。
…
真に優雅なる者は、逆さまになって泳いでいる。
腹を水面に向けて泳いでいる。
その躰から不自然に飛び出た目玉。
ギョロりギョロり
水底をみている。
…
見物人にはそいつが気にくわない。
完璧に磨いた水槽を汚すものであるからだ。
見た目が悪いからだ。
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そうだこいつは、初めから気持ち悪いと思っていた。
見物人はそいつを網で掬い出し
ティッシュペーパーに放つ。
目玉がぐるりと回転し
見物人の眼をみた。
嗚咽が出る。
即座にティッシュペーパー丸める。
その塊をゴミ箱へ捨てる見物人。
彼は直前に、拳に力を込めた。
グチャり。
…
ゴミ箱の中には生臭い塊と
こぼれ落ちた目玉が転がっている。
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