朝日の報せ
悪い夢をみていた。
秋空が朝日で焼けている。カーテンの隙間から覗く橙の光が、漆の剥げた古い木製の棚に射し、目玉のような木目の模様を、ぼんやりとした空気の中に浮かべていた。
ぼくは悪夢を覗かれたような気分になって、咄嗟にそいつを睨み返したが、目玉の方はお前など見えていないとでも言いたげに遠くを眺めている。
空気の張り詰めた音で、誰もいないことに気付かされた。ぼくは相手にされなかった視線の行方を捜して、光の筋に沿って流れている埃の脈を追う。冷たい朝だ。
晴れ渡り、叫びの衝動を掻き立てる空。手を伸ばすと遠ざかってゆくこの青空は、きっと地上の世界に独りの寂しさを知らしめているのである。
これは、空が遠ざかっているのではない。実はこちらの方で、その透き通った蓋の存在に怖れをなし、追い立てられたように逃げ出してしまうのだ。
乾風が吹いて、庭に咲いたデュランタの花と、その花弁の色との調和を乱す、下品な黄土色の実とが、互いに迷惑そうな感じで揺れている。足下にできた紫色の渦が、ぼくの躰を浮かせ、惜別の表情を見せながら過ぎていった。
おそらく今年最後となるであろう大型の台風が、どこか南の海で発生したらしい。最後の台風が過ぎたら秋がくるのだろう。
今日はどこへ行こうか。
明日はどこからやってくるのだろうか。
今朝の恐怖は、まだぼくの胸で沈黙している。