倦怠の勿忘草

“汚れつちまつた悲しみは 倦怠のうちに死を夢む”

月夜の幽香

 

 

私の存在はどうしてこうも悩ましい

 

みな同様に悩みを抱えているか

 

悩みを抱えながら

 

無理してもまだ笑うのか

 

 悩みを深刻に考え込むことが私の罪ですか

 

みなが顔を歪ませ笑うなら

苦しみに泣いていてはいけませんか

 

みなが置かれた場所で笑うなら

居場所を探して彷徨うのはいけませんか

 

 

その笑みは偽りではありませんか

 

 

私は偽りなく笑いたいのです

 

 

悩みを逃さず

 

苦しみを噛みしめた先に

 

何も疑うことのない君の

 

何も気にかけず無防備に笑う君の

 

曇りのない微笑みの真似をして笑いたいのです

 

 

例えば夜に

 

孤独な月を眺めている私は

 

欠けたる心の喪失感に押し潰されそうな私は

 

きっとその日を

 

待っているのです

 

私はこの心が丸く満ちた夜を迎えない限り

 

あっけらかんとして

 

全てを忘れて

 

何か私には関係のないような問題を

 

得意げに話すことなんてできません

 

 

しかし私も告白しましょう

 

私の胸の裡には

 

常に動き回って掴みようのない

 

苦しみを掻き回す虫が飛んでいます

 

月夜になると細やかな鳴き声を聴かせ

私の心を擽って寝つかせまいとする虫

 

川のせせらぎにのって踊るように光を放ち

私を闇夜へ誘う虫

 

 

虫の声を聴き

私は不安になるのです

 

虫の光を見て

私は不安になるのです

 

 

虫の声は竟に月は満ちぬと囁いている

虫の光は月の明かりを頼りなく再現している

 

 

毎夜

 

私はこの暗闇が恋しく

 

光の中では感じられない

 

不思議な匂いを嗅ぎ

 

考える間もなく

 

その甘美な気分へと誘い込まれているのです

 

 

虫の声に聴き入るとき

 

私は母親に頭を撫でてもらっているような

 

深い安らぎを感じるのです

 

虫の光をぼんやりと眺め

 

闇夜の香り

孤独の香り

 

微笑む少女の首元に

顔を埋めたときような

 

あの香りを吸い込み

 

私は苦しみを癒しているのです

 

 

 

ああ

私はもう死んでもいい

 

 

この香りのなかで死んでしまうこと

 

それが私のしあわせに違いない

 

それでも私を生かすのは

 

いったいどんな希望か

 

この香りを漂わせた君を

 

月を憐れみながら眺めている君を

 

私はもう愛してしまっている