倦怠の勿忘草

“汚れつちまつた悲しみは 倦怠のうちに死を夢む”

2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

紫陽花

堰を切ったように雨が降っております。 私は務めが終わって、自宅に最も近い駅のホームで雨宿りをしていました。古びた線路の隙間から、水の増した川が轟々と流れているのが見えています。雨の音なのか、川の流れる音なのか、神経を集中させなければ判別がつ…

紫陽花

あなたへ、 わたしはもう堪えられません。 あなたは、事ある毎にわたしへの愛を囁いてくれましたけれども、最期まで愛してると言いながら、結局わたしから離れていきましたわね。わたしも我儘な女ではありませんので、その理屈はよくわかるのです。わたした…

写実の世界

私は絵を見るのが好きです。しかし、絵に感動して、いったい誰が描いたのだろうという興味から、その作者名を一瞬は憶えても、それが二日ともったことはないと思います。 絵を見た記憶はずっと残るのですが、そのときの感動と作者名は、日を追うごとに霞んで…

朝日の報せ

悪い夢をみていた。 秋空が朝日で焼けている。カーテンの隙間から覗く橙の光が、漆の剥げた古い木製の棚に射し、目玉のような木目の模様を、ぼんやりとした空気の中に浮かべていた。 ぼくは悪夢を覗かれたような気分になって、咄嗟にそいつを睨み返したが、…